みんな ありがとう
by epiplectic3110
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カテゴリ:海月を嘯く( 4 )
クラゲに背を向ける男
予備校の帰り道
「一駅歩こうか」
と、Iとともに寄り道をする。

新宿駅の改札を抜け
エンパイヤステートビルを彷彿とさせるビルの根元に向かう。

新宿の街は、もうクリスマスの雰囲気で染まっている。
昼過ぎに降り出した雨は、雪に変わっていた。

公園にたどり着いて、ベンチに腰掛ける
雪のためか人通りは少なく、皆足早に通り過ぎていく。
公園の中心にある木は、色とりどりの光に包まれ 点滅していた。

「きれいだね」
そういうと彼女は 手慣れた手つきで煙草に火をつける。

「きれいだ」
間接照明で照らされた公園のベンチは
UFOが降り立ったようなこのイルミネーションとうまくマッチングし
静かに華やかな雰囲気を演出していた。

僕はそのイルミネーションに眼を細め
眼鏡を外す

「眼鏡 かけないの?」
と聞いてくる彼女に

「見えない方が綺麗なこともある」
と答える。

不明瞭になった物質の境界線

イルミネーションの光は 冬の硬質な空気に拡散し
少し明るいままの都会の空に 溶けるように伸び上がる。

その後ろにそびえるビルディングは
天空へと続く光の柱のようだ。

「epiはロマンチストだね」
彼女は口を斜めにする。

「どうかな」
そうかもしれない と思う。

どこかから 誰かが弾いているギターの音と
誰にも振り向かれない歌声が聞こえる。

しばらくそのままにした後

再び眼鏡をかけると
軽い目眩とともに、物質の境界がはっきりと決まった世界が広がる。



すべての物事は ぼやけて拡散していた方が 綺麗なのに…
そんなことを考える 心が摩耗しているのかもしれない。

自分の心も ぼやけたまま
あの人との関係も ぼやけたまま
自分の将来も ぼやけたまま

みんな空気に拡散して
実体を持たないようになればいい

そうすれば クラゲのように空を漂っていける

何も考えず ずっと



心理の闇に向かって思考は急速に落ちていく。

「ねぇepi さむいよ」
という声で、現実に引き戻される。
扉が開いたままの心の暗部を再び奥底に沈める。

「もういこうか」
そういって歩きだす 


再び 現実に向かって ビルを振り向かないで
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by epiplectic3110 | 2004-11-01 23:24 | 海月を嘯く
白い溜息
窓の外には濡れた路面と歩いていく二つの陰がある。
僕はその陰をぼんやりと眺めている。

二つの陰は、くっつき 離れながら
濡れた路面に反射するナトリウムランプによって
シルエットだけの黒い固まりに見える。

そっと溜息をつく

「epiさん 何やってるの?」

思考が内向へ沈んでいこうとしたときに、友人の声にはっとする。

「雪が降るかなと思って」

確かに今日は寒い。そろそろミゾレになってもいいだろう。

「ほーらほら おねーさんには分かるのよ〜 天気なんてどうでもいいんでしょ?」
「ばれたか」
「修行が足りんな」

といって、ふふん といった趣なのは、友人I

彼女には隠し事はできない。
どんなに隠しても気付かれてしまう。

そしていつもいきなり
「どした?なんかあった?」
と聞いてくる。

感度も特異度も高い優秀な”カン”
その鋭敏さが心地よい

「epiさ〜ん コンビニいかね?」
「いいよ」
学ランを羽織って外に出る。

二人は端から見ると滑稽なコンビだ。
彼女は現役ばりばりコギャル
自分は学ランのホックまで閉めた”真面目君”

しかし、仲がよい
波長が合うのだ。

否 彼女の鋭い”カン”に
自分の微弱なSOSを気づいて欲しいだけなのかもしれない。

霧雨降るなかコンビニへと向かう。
「epiさんまた相談乗ったんでしょ?」
「・・・うん」
「ほんっと ”いいひと”だよね みてらんない」

そう 当時僕は好きな人の恋愛相談に乗っていた。
彼氏と別れそうだと相談を受け
自分は好きな人がほかの男と破局しないように奔走していた。
といっても相談に乗っただけなのだが

友人としての自分と 彼女を好きな自分との間で
葛藤できる程度の純粋さを保っていた。



コンビニでカップ麺とコーヒーを買って外にでる。
予備校の前にある防衛庁がぼんやりと霞んでいた。

「少し歩こか?」

と聞かれたが、黙って首を振る。
歩く=話を聞く である。

「ありがとう 大丈夫」

といって 缶コーヒーを口に含む。

彼女はマルボロライトに火をつける。

しばらく沈黙して、
霞んだ防衛庁の緑色の屋根を見ていると

突然Uが口を開いた。

「epiはさ 悲しい自分が好きなんだよね」
「そうやっていつも傷ついて失恋しているのが好きなんだよね」

「そうかもしれない」

「一人で傷ついていれば安心なんだよ」

「・・・でもきっと、本当に傷つくのを恐れているんだよ」

「うん」

「でも本当に傷つかないと…手に入らないものもある」

「・・・」

珍しくズバズバという彼女に面食らいながら
心のなかで分かっていたことなのだが
やはり言われると堪える。

「わかってる うん」

そういうと ふたりして黙って歩き出した。

彼女の吐き出す息は
タバコのせいか 寒さのせいか
白かった。
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by epiplectic3110 | 2004-10-19 23:48 | 海月を嘯く
クラゲを見た男
高校の頃、僕のクラスにはとても変わった子がいた。
特徴といえば、少し北欧系を髣髴とさせる彫の深い顔 大きな目
きっと美人なのにおしゃれに無頓着で、学年で唯一スカート丈が膝丈
家が遠くて学校に来るのも帰るのも早い。
そして、歩くのも とても早い。

そんな彼女と 僕はとても仲がよかった
年間友人ヒットチャートを作ったら十位以内にランクインするぐらい仲がよかった。
(“とても”というほどではないと思うかもしれないが、彼女はアプローチされない限りコミュニケーションをとる人間ではなかったため、特定の仲がよい集団というのに属さなかった。普通はトップテンはおろか友達になるのも至難の業かもしれない)

時は1999年 高三の夏
みな進路を決め、それなりに勉強一色の夏が始まろうとしていた。
その頃僕はといえば、慢性的に不足した睡眠時間を国語と数学以外の授業に当てて居眠りをしつづける学級長だった(そして僕は級長という呼び名の役職が残っている学校を密かに気に入っていた)。

「…明日から夏休みだけどさっき言ったことに注意してね」
「話はこれぐらいかな?級長、号礼」

担任の声にはっとして 号令をかける
「きりーつ きをつけ れい」

モノラルがステレオになったかのように辺りがざわつき始める。

振り返ると
彼女が教室から出る瞬間だった

かろうじて舌打ちを抑えながら呟く
「相変わらず早いな…」

さっきの号令から十秒経っただろうか?
光の速度でも超えたのだろう。

あわててカバンを手にする。
黒い布製のカバンは参考書でずっしりと重かった。

エレベータを無視して階段を一段抜かしで下りる。
外へ飛び出すと、うだるような暑さだ。

「Nさん!」
意外にも近くに姿を捉え、思いがけず大きな声になってしまったことが少し恥ずかしい。

「epiくん?どうしたの?」

「帰り… ご一緒しません?」
気づかれないように息を整えながら答える。

彼女はにっこりと笑って同意する。
断られるはずもないのに、内心ほっとする。

「この間質問されたハーディワインベルグの法則のところわかったから時間あったら教えるよ。今日キミを逃すとずいぶん後になるからね」
用意しておいた理由を持ち出す。
理由がなければ拘束することも出来ないのが切ない。

「ホント?ありがと」
「時間ある?」
「んー 少しだけなら」

常に可及的速やかに家に帰ろうとする彼女

いつも家がアルニコ磁石のように彼女を捕らえている。
下校途中に三十分も拘束できれば上出来だ。

しかし、普段彼女は特段そのことを気にもしていない風であった。
きっと脳が強磁性体か何かで出来ているのだろう。

「学校 戻る?」
彼女が口を開く。
うん 確かに炎天下の中勉強するのもいかがなものかと思える。

しかし、学校に戻るのはいかにも興ざめのようにも思えた。

「じゃぁ 隅田川の遊歩道周りで帰るのはどう?あそこなら多分涼しいしベンチもある。さほど遠回りにはならないと思うけど」

「そうね うーん」
時間を気にしている。

「まぁ一学期最後だし散歩がてらにさ ね?」
「そうね…わかった 行こうか」

さっさと歩き出した彼女に少し遅れて歩き出す。
初夏の終わった空は、憎たらしいほど眩しい。

国技館を左手に旧安田庭園の横を通りながらとりとめもない話をする。

彼女は僕と同じ医学部志望
共通の話題は多い。

学ランの中気温が外気温より高い温度で平衡に達した頃、遊歩道に着いた。

ここにはよほど変わった趣味(炎天下に散歩)を持つ人と、アウトドア派な方々が少数ダンボールのお家にいる以外、人はいない。

「そこのベンチでいいよね?」
と彼女はベンチに腰掛けて参考書を開く

「なんだか全然涼しくないね 吹いてくるのは熱風…サイアク」
自分で提案しておいて、そんなことををぼやきながら腰掛ける。

早速本題に取り掛かる。
「ここ!形質XYは自家受精ではxx+2xy+yyだから…」

彼女はこめかみに指を当てながら聞いている。
その辺に聞くためのスイッチでもあるのだろうか

「う~ん 納得いかない!だってこれって…」

三十分ほど討論し、結局問題は振り出しに戻る。
100%納得がいかなければ許せない彼女はいつまでも納得がいかない。

そんな彼女のために僕が姉の大学の教科書までひっくり返していることはもちろん知らないだろう。

肩をすくめながら
「ふぅNさんにはかないませんよ また勉強して出直してきます」
というと

肩をバシッとたたきながら
「なんなのそれ あはは」
と笑う。

叩かれた肩がほんのり痛い

「いたた 折れた!折れた!」
「もぅ!もっかい叩くよ!」
などと悪ふざけをする。

今日からしばらく遠縁になる 彼女のいる日常を噛締める。

受験勉強の合間 つかの間のひと時
三十分の永遠

しかしもう僕には、ここで彼女といる理由がなくなっていた

思い立って、ささやかな提案をしてみる。
「少し遠回りしてあっちの橋のほうから行こうか」

「いいよ」

参考書を仕舞い、並んで歩き出す。

川からの熱風は、都会の川のにおいがして“涼しい”とか“心地よい”から程遠い
それでも心地よいと思えるのはなぜだろう?

“ささやかな抵抗”

僕は一分でもこの時間を長引かせようと川べりの欄干のほうへ寄ってみる。
川の中を覗き込むと何かがたくさん漂っているのが見える。

「お クラゲだ」
「ほんとだ すごい量だね」

川面にが漂っているのは大量のミズクラゲ
満潮でここまで来たのだろう。

川の水はほぼ汽水だろう 真水に入れたら浸透圧で死んでしまうかな?などと思いながら彼らを眺める

「これがさ 原発の冷却水の取水口に詰まったりするんだよね」
などとつぶやく。そんなニュースがあったのを思い出したからだ

「クラゲには水質浄化作用があるって知ってた?」
と彼女が尋ねてくる。

もちろん知っているが、何故か知らないことにする。

「ふーん 何にも考えてなさそうで役に立ってるんだね」
と言ってみる。


しばらく並んで川面を眺める

そこにいるクラゲ達は、
汚い川も 通り過ぎる船も 
眺める僕らも 数ヶ月に迫った受験も 
少年犯罪も 汚職事件も

何もかも無関係に漂っていた。

きっと彼らを僕が持ち帰って水槽に入れても
彼らはそんなことは全く気にしないだろうな

そんなことを考える。

「クラゲを飼うのは難しいね」
と口に出してみる。

「epi君飼いたいの?」
彼女は珍しい昆虫を見つけた昆虫学者のような顔をしている

「どうかな…」
と言って口を斜めにする

「変な人…」
といいながら彼女は笑う

そんな彼女を眺めた後に、僕は空を仰ぐ。

「空にクラゲは いないね」
見上げた夏の空は、必要以上に眩しかった。
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by epiplectic3110 | 2004-08-31 16:13 | 海月を嘯く
くらげになりたい女

あれは僕が二年生だった頃
大学に入ってからの人間関係と
膨大な勉強に押しつぶされそうになりながら
何とか自分を保つのが精一杯だった

前期の試験期間中
その頃僕は、コンパスのような歩き方をする女とよく一緒に勉強をしていた


「じゃあ頚椎は?」
「Vertebrae cervicales 」
「うーん 鎖骨」
「Clavicula」

彼女が言ってきた骨の名前に
ラテン語を与える作業を始めて半時間が経とうとしていた。

「っていうかさぁ 解剖のラテン語ってせいけいでも行かないと使わなくね?」

「えー?でもなんだかんだ色んな科で使ってるみたいだよ」

解剖学の再試勉強に付き合ってくれている彼女は、自分もいい加減疲れたという表情をしながらそういって野菜ジュースを飲んだ。

「あー つかれた 一服していい?」

彼女は目でうなずく
僕は黙って火をつける。

ゆっくりと煙を吐いて、その形を弄ぶ
脳の血流が急激に下がるのがわかる

「epiはさ 何になりたいの?」

タバコのふた口目ぐらいで彼女は突然たずねてきた
目線は、たった今野菜ジュースの消えたコップにむけられたままだ

「…なんで?」

普段そんなことを聞いてくる女ではないので
すこし面食らって再び煙を吐く


彼女は少し考える仕草をした後、目だけ僕のほうを向けて言う

「・・・あたしはさ くらげになりたいの」

「は? くらげってあのクラゲ?海の?」

「うん」

しばらく黙って考える
・・・思考をトレースできない

「なんでクラゲなのさ プラナリアとかじゃだめなわけ?」

すこし笑いながら聞いてみる

「プラナリアも悪くない… でもクラゲかな やっぱり」


そういって少し黙った後
彼女はその夜何杯目かの野菜ジュースを取りに席を立った

クラゲ か
あいつ脳みそにカビでも生えたのかな?

笑的に思考を動かす。


・・・なんでそんな話をしたのだろう
ふと急に我に返る


普段は小うるさくて、ちょっと変わっていて
無邪気そうに振舞うけれど
とても頭が切れて、時々たいそう大人な
そんな彼女らしからぬ その一言

ワシントン条約で保護しなければならないほど貴重だ

僕の思考は、思考的内向へ急速に落ちていこうとする



「続きをはじめよう」
という女の声にはっとする

彼女は何もなかったかのようにそこに座っていて
骨学のプリントをめくり始めていた。

「そうだね」

僕も次のページをめくった。



夜はもう明けようとする頃に勉強も終わり
翌日の試験に備え学校へ向かう途中、彼女と別れた

短いスカートから伸びた足は
コンパスのように正確無比な歩調でを歩いていく
朝の湿った路面の何かを測るように・・・

僕はそれを眺めながら黙ってタバコに火をつけ

「くらげ、か」

とつぶやいた。
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by epiplectic3110 | 2004-08-24 12:49 | 海月を嘯く