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みんな ありがとう
by epiplectic3110
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白い溜息
窓の外には濡れた路面と歩いていく二つの陰がある。
僕はその陰をぼんやりと眺めている。

二つの陰は、くっつき 離れながら
濡れた路面に反射するナトリウムランプによって
シルエットだけの黒い固まりに見える。

そっと溜息をつく

「epiさん 何やってるの?」

思考が内向へ沈んでいこうとしたときに、友人の声にはっとする。

「雪が降るかなと思って」

確かに今日は寒い。そろそろミゾレになってもいいだろう。

「ほーらほら おねーさんには分かるのよ〜 天気なんてどうでもいいんでしょ?」
「ばれたか」
「修行が足りんな」

といって、ふふん といった趣なのは、友人I

彼女には隠し事はできない。
どんなに隠しても気付かれてしまう。

そしていつもいきなり
「どした?なんかあった?」
と聞いてくる。

感度も特異度も高い優秀な”カン”
その鋭敏さが心地よい

「epiさ〜ん コンビニいかね?」
「いいよ」
学ランを羽織って外に出る。

二人は端から見ると滑稽なコンビだ。
彼女は現役ばりばりコギャル
自分は学ランのホックまで閉めた”真面目君”

しかし、仲がよい
波長が合うのだ。

否 彼女の鋭い”カン”に
自分の微弱なSOSを気づいて欲しいだけなのかもしれない。

霧雨降るなかコンビニへと向かう。
「epiさんまた相談乗ったんでしょ?」
「・・・うん」
「ほんっと ”いいひと”だよね みてらんない」

そう 当時僕は好きな人の恋愛相談に乗っていた。
彼氏と別れそうだと相談を受け
自分は好きな人がほかの男と破局しないように奔走していた。
といっても相談に乗っただけなのだが

友人としての自分と 彼女を好きな自分との間で
葛藤できる程度の純粋さを保っていた。



コンビニでカップ麺とコーヒーを買って外にでる。
予備校の前にある防衛庁がぼんやりと霞んでいた。

「少し歩こか?」

と聞かれたが、黙って首を振る。
歩く=話を聞く である。

「ありがとう 大丈夫」

といって 缶コーヒーを口に含む。

彼女はマルボロライトに火をつける。

しばらく沈黙して、
霞んだ防衛庁の緑色の屋根を見ていると

突然Uが口を開いた。

「epiはさ 悲しい自分が好きなんだよね」
「そうやっていつも傷ついて失恋しているのが好きなんだよね」

「そうかもしれない」

「一人で傷ついていれば安心なんだよ」

「・・・でもきっと、本当に傷つくのを恐れているんだよ」

「うん」

「でも本当に傷つかないと…手に入らないものもある」

「・・・」

珍しくズバズバという彼女に面食らいながら
心のなかで分かっていたことなのだが
やはり言われると堪える。

「わかってる うん」

そういうと ふたりして黙って歩き出した。

彼女の吐き出す息は
タバコのせいか 寒さのせいか
白かった。
by epiplectic3110 | 2004-10-19 23:48 | 海月を嘯く
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